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東京高等裁判所 平成9年(ネ)1646号 判決

控訴人

飯田明

右訴訟代理人弁護士

音喜多賢次

被控訴人

石田芳男

外四名

右五名訴訟代理人弁護士

太田孝久

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人が別紙物件目録二記載の土地にその所有する普通乗用自動車を駐車するについて、同土地の全部又は一部に車両その他の物件を存置し、あるいは、工作物を設置するなど控訴人が同土地に自動車を出入りさせることを不可能とする方法により、その駐車を妨害してはならない。

3  被控訴人らは、控訴人に対し、右土地に存置しているダイハツ製軽四輪自動車(DAIHATSU・ATRAI)を撤去せよ。

4  被控訴人らは、各自、控訴人に対し、八万三二〇〇円及び平成八年四月二三日から右2の妨害を止め、右3の自動車を撤去するまで一か月当たり五万円の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨

第二  事案の概要

一  本件は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の共有者の一人である控訴人が、他の共有者の全員である被控訴人らに対し、本件土地のうち、同物件目録二記載の土地(以下「本件係争土地」という。)について、控訴人がその所有する普通乗用自動車を駐車する権利を有しているのに、被控訴人らが本件係争土地にダイハツ製軽四輪自動車(DAIHAT-SU・ATRAY。以下「本件車両」という。)を存置するなどして、控訴人の駐車を妨害していると主張して、その妨害の禁止並びに本件車両の撤去及び被控訴人らの妨害により控訴人が既に被り、又は将来被るという別紙損害金一覧表記載の損害金の支払を求めている事案である。

二  前提となる事実関係

本訴請求に対する判断の前提となる事実関係は、次のとおりであって、いずれも当事者間に争いがない。

1  控訴人及び被控訴人らは、本件土地の共有者であって、各自の共有持分は、別紙「当事者所有土地一覧表」上段記載のとおりである。

2  本件土地は、もと中小企業金融公庫が所有していた世田谷区下馬二丁目〈番地略〉の宅地(497.54平方メートル。以下「旧〈番地略〉の土地」という。)の一部である。すなわち、別紙「当事者所有土地一覧表」下段及び別紙「本件土地および隣接土地の所有権移動経過表」記載のとおり、旧〈番地略〉の土地から被控訴人芹田春江及び同芹田妙子の所有している世田谷区下馬二丁目〈番地略〉の土地(104.95平方メートル)、被控訴人香山磐根の所有している同〈番地略〉の土地(95.74平方メートル)、控訴人の所有している同〈番地略〉の土地(67.20平方メートル)、被控訴人石田芳男の所有している同〈番地略〉の土地(79.98平方メートル)、被控訴人古川清の所有している同〈番地略〉の土地(91.65平方メートル)及び本件土地がそれぞれ分筆された後、本件土地は、控訴人と被控訴人らとが前記の持分割合により共有しているものである。

3  控訴人あるいは被控訴人らが所有している世田谷区下馬二丁目〈番地略〉の土地と本件係争土地を含む本件土地との位置関係は、別紙図面表示のとおりである。

三  本件訴訟における争点

本件訴訟における第一の争点は、控訴人が、控訴人と被控訴人らとの共有に係る本件係争土地に控訴人の所有する普通乗用自動車を駐車させていたことから、被控訴人らとの協議を経ていないとしても、本件土地の共有持分に基づき、本件係争土地を控訴人の所有する普通乗用自動車の駐車場所(以下「本件駐車場所」という。)として使用し得る権利(被控訴人らから本件駐車場所として使用することを妨害された場合には、その妨害の禁止を求め得るだけの権利をいう。以下同じ。)を有するか否か、第二に、本件土地の共有持分に基づき本件係争土地を本件駐車場所として使用し得る権利が認められないとしても、その権利を時効により取得したか否かであるところ、この点に関する当事者双方の原審及び当審における主張は、概略、次のとおりである。

(控訴人)

1 共有持分に基づく本件係争土地の使用権

(一) 本件土地は、控訴人と被控訴人らとの共有に属するから、控訴人は、共有者の一人として、本件土地について、その共有持分に基づく使用権を有するが、判例(最判昭和四一年五月一九日民集二〇巻五号九四七頁)によれば、共有者の一人がする共有物の使用は、他の共有者との協議を経ていない場合であっても、その使用の開始に際して違法性がなく、以後、平穏公然に使用を継続しているときは、他の共有者が当該共有物の明渡しを求めることはできないところ、控訴人が本件係争土地を本件駐車場所として使用することは、右の要件を具備するものであるうえ、被控訴人らも黙示に承諾していたものでもあるから、被控訴人らは、控訴人が本件係争土地を本件駐車場所として使用することを妨げることはできず、控訴人は、占有訴権ないしこれに準じて、その妨害の禁止を求め得るものである。

(二) 因みに、本件土地は、甲第一二号証によって明らかなとおり、控訴人及び被控訴人らが駐車場として使用するため、各自の必要とする駐車場を考慮して分割されることが予定されていたうえ、本件土地の面積に控訴人の持分割合を乗ずれば、8.884平方メートルとなるところ、本件係争土地を本件駐車場所として実際に使用する面積は、せいぜい7.084平方メートルであって、その持分割合に応じた面積の範囲内でもある。

(三) 被控訴人らは、控訴人が自宅を建て替えるに際して、その所有する自動車の一部を敷地内に入れることを提案したのに、これを拒否したうえ、およそ本件土地の合理的使用ということはできないナンバープレートを外した車両(控訴人が本訴で被控訴人らに対して撤去を求める本件車両も同じである。)を本件係争土地に存置するなどして、控訴人が本件係争土地を本件駐車場所として使用することを妨害しているが、これは、控訴人に対する不法行為を構成するものであって、これが許されるべきものでないことは、前記判例に照らしても明らかである。それにもかかわらず、控訴人が被控訴人らに対して妨害の禁止を求めることができないとすれば、控訴人が、本件土地に侵出して自動車を駐車している被控訴人古川清の当該駐車を止めさせるため当該部分に物を置くなどしても、また、本件土地に植栽されている被控訴人らの草木を引き抜くなどしても、許されることになるが、これでは正当な法的解決は望めず、この点からしても、控訴人の被控訴人らに対する妨害禁止請求が認められるべきことは当然である。

2 時効による本件係争土地の使用権の取得

仮に共有持分に基づく本件駐車場所の使用権が認められないとしても、控訴人は、かねて本件係争土地を本件駐車場所として使用してきたが、民法が時効取得を認めている財産権に制限はないから、本件係争土地を本件駐車場所として使用する控訴人の権利も時効取得の対象となるべきところ、控訴人は、本件係争土地を本件駐車場所として継続的に使用する意思をもって、かつ、継続的に使用してきたのであるから、土地の賃借権の時効取得を認めた判例(最判昭和四三年一〇月八日民集二二巻一〇号二一四五頁など)によっても、その権利の時効取得が認められるべきである。駐車場として使用することの性質上、本件係争土地に一日中自動車を駐車させていたわけではないが、このことから、駐車場として排他的に使用していなかったとか、継続的に使用していなかったとかいうべきものではない。

(被控訴人ら)

1 共有持分に基づく本件係争土地の使用権

(一) 控訴人は、本件土地の共有持分に基づき本件係争土地を本件駐車場所として使用し得る権利があると主張するが、本訴請求は、被控訴人らに対し、被控訴人らが本件係争土地に存置している本件車両の撤去を求め、しかも、その間の損害金の支払も求めるというように、本件土地の共有持分に応じた被控訴人らと平等な本件係争土地の使用を求めているわけではない。控訴人は、判例を引用して、被控訴人らが、本件係争土地を本件駐車場所としている控訴人に対し、本件係争土地の明渡しを求めることはできないように主張するが、その引用する判例によっても、控訴人が本件係争土地を本件駐車場所として他の共有者の使用を排除して独占的に使用する権利が認められるわけではない。控訴人が本件係争土地を本件駐車場所として他の共有者の使用を排除して独占的に使用し得るという本訴請求に係る権利を有するためには、他の共有者である被控訴人らとの間で協議が成立していることを要するというべきところ、控訴人と被控訴人らとの間に、そのような協議は成立していないから、控訴人の本訴請求は失当である。

(二) 控訴人は、本件係争土地を本件駐車場所として実際に使用する面積が本件土地の面積に控訴人の持分割合を乗じた面積の範囲内であるから、本件係争土地を本件駐車場所として使用し得るようにも主張するが、本件土地に共有者の全員が駐車場を確保することは不可能であって、控訴人の主張がいかに我が儘な主張であるかは自ずと明らかである。

(三) 控訴人は、その自宅を建て替える際、被控訴人らに対し、自動車の一部を敷地に入れて駐車することを提案したが、その提案は、車両の五分の一程度を敷地に入れるというのであって、本件土地を共有者が平等に使用するという原則から大きく外れるものであったため、被控訴人らは、これを承諾しなかったのである。

控訴人は、被控訴人らが本件係争土地に本件車両を存置していることが本件土地の合理的使用でないとして非難するが、被控訴人らは、控訴人が本件係争土地を本件駐車場所として他の共有者の使用を排除して独占的に使用する権利がないのに、そのような使用をしようとしているため、やむを得ず本件車両を存置しているのであって、これをもって控訴人に対する不法行為を構成するというべきではない。

控訴人は、控訴人が被控訴人らに対して妨害の禁止を求めることができないとすれば、控訴人が、被控訴人古川清の駐車を止めさせるため本件土地に侵出して駐車している部分に物を置くなどしても、また、本件土地に植栽されている被控訴人らの草木を引き抜くなどしても、許されることになるなど、控訴人が実力行使で何をやっても構わないような主張もしているが、そのような主張が全く的外れであることはいうまでもない。

2 時効による本件係争土地の使用権の取得

控訴人が本件係争土地を本件駐車場所として使用していた事実があるとしても、他の共有者である被控訴人らも本件係争土地を含む本件土地を通路として使用してきたのであって、控訴人が排他的に本件係争土地を使用していたわけではなく、その主張に係る時効取得が認められる余地はない。

第三  当裁判所の判断

一  共有持分に基づく本件係争土地の使用権について

1  前記前提となる事実関係に証拠(甲六、七、一〇、一九、乙一、二及び原審における控訴人本人)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められ、右甲六、一九の記載及び控訴人本人の供述中、この認定に反する部分は採用することができず、他にこの認定を妨げる証拠はない。

(一) 控訴人と被控訴人らとは、昭和四一年八月ころ、本件土地に隣接する各自の所有地を中小企業金融公庫から取得したが、当時、控訴人及び被控訴人古川清の二名が自動車を所有していたにすぎなかったため、当該二名が本件土地に各自の所有する自動車を駐車させるについて、他の被控訴人らが特に異議を述べることはなく、また、他の被控訴人ら宅に自動車で訪れた親類縁者等が本件土地に自動車を駐車させることもあったが、これについて、控訴人あるいは被控訴人古川清が異議を述べることもなかった。

(二) 被控訴人石田芳男及び同香山磐根は、かねてよりその自宅の前の本件土地内に草木を植栽して現在に至り、また、控訴人も、その自宅を建て替える前には、草木を植栽していたところ、その植栽についても、他の被控訴人らから特に異議が述べられるようなことはなかった。

(三) 被控訴人古川清は、昭和四七年ころ、自宅を建て替えたが、その際、その所有する隣接土地内に自動車を駐車することとして、建物の一階部分に駐車場所を設置したものの、そのスペースが十分でなかったため、本件土地に五〇センチメートルほど侵出して自動車を駐車させていた。

(四) 控訴人は、平成六年七月ころ、自宅を建て替えることになったが、建替工事が進捗中の平成七年三月ころ、被控訴人らから、以後、控訴人がそれまで自動車を駐車させていた本件係争土地に自動車を駐車させることは遠慮して貰いたいとの要請を受けた。

そこで、控訴人は、控訴人の所有する隣接土地に自動車を駐車させる方向で検討した結果、駐車を予定している自動車の約四分の一がその所有地に入り、四分の三が本件土地に侵出するような提案をした。

しかし、被控訴人らがそのような提案に納得しなかったため、控訴人は、その提案を撤回し、本件係争土地に自動車を駐車することができるという前提で、自宅の建替工事を完了した。

(五) 被控訴人らは、控訴人が被控訴人らの要請を無視し、自宅の建替工事を完了したことから、控訴人のみが控訴人と被控訴人らとの共有に係る本件土地の一部である本件係争土地を本件駐車場所として使用するのは、共有持分に基づく使用の範囲を逸脱し、本件係争土地を控訴人が専用するものであって、そのような使用を阻止しなければ、被控訴人らが本件係争土地を含む本件土地を共有持分に基づいて使用することができなくなると考え、控訴人がその所有する自動車で旅行に出かけていた平成七年八月ころ、本件駐車場所に木製の柵を設置して、控訴人が本件駐車場所として専用し得ないような措置を講じた。

しかし、控訴人は、被控訴人らが設置した木製の柵を撤去して本件駐車場所に自動車を駐車させ、その後、被控訴人らがそのような控訴人の本件係争土地の使用は共有持分に基づく使用の範囲を超える旨の抗議にも耳を傾けず、被控訴人らも本件土地にそれぞれ自動車を駐車させればよいなどと言って揮らなかった。

そこで、被控訴人らは、控訴人の言うように被控訴人らが本件土地に自動車を駐車させるとすればどのような事態に至るかを控訴人に分からせるため、被控訴人古川清がその所有する自動車を本件土地内に駐車させたり、ナンバープレートを外した車両を存置したりしたうえ、現在でも、その一環として、本件車両を本件係争土地に存置している。

2 右事実によれば、控訴人は、かつて本件係争土地に自動車を駐車させていたが、それは、本件土地の共有者のうち、中小企業金融公庫から本件土地及び隣接土地を購入した当時、自動車を所有していたのが控訴人及び被控訴人古川清の二名であったため、他の被控訴人らは、早晩、当該二名が自宅を建て替える際には、各自の所有する隣接土地に自動車の駐車場所を確保することを期待し、それまで本件係争土地の使用を容認することにして、その駐車に特に異議を述べなかったにすぎないものと窺われるのであって、被控訴人古川清が、自宅の建替えに際して、自宅の一階部分に駐車させることにしたのも、結果的には、そのスペースが十分でなかったため、自動車が五〇センチメートルほど本件土地に侵出する状態となっているとはいえ、他の共有者に対する関係で、本件土地を同被控訴人が専用するようなことにならないように配慮した措置であったと推認し得るところである。

したがって、控訴人についてみても、本件係争土地に自動車を駐車させていたことは、被控訴人古川清についてと同様に、他の共有者である被控訴人らにおいて、控訴人が自宅を建て替える際は、当然にその所有する隣接土地に自動車を駐車させ、本件土地に自動車を駐車させることを止めることを前提に容認していたにすぎないのであって、その建替工事に際して、被控訴人らが控訴人に対して前認定の要請をしたのも、ごく自然の成り行きであったといわなければならない。

これに対して、控訴人が、被控訴人らの要請に従ったとはいえないような自動車の四分の三も本件土地に侵出して駐車させるような提案をし、その提案を被控訴人らが納得しないと、本件係争土地に自動車を駐車させることが当然に許されるという態度に終始したため、被控訴人らは、前認定のとおり、控訴人が本件係争土地を本件駐車場所として使用することが本件土地の共有持分に基づく使用として許されないことを控訴人に分からせるため、本件係争土地に柵を設置したり、車両を存置したりし、現在でも、本件車両を存置しているが、それは、共有物である本件土地を管理するうえでやむを得ない措置として是認されるべきものである。

3 この点について、控訴人は、本件係争土地を本件駐車場所として使用することは、本件土地の共有持分に基づく使用として当然に許されるように主張するが、控訴人の主張する使用権は、本件係争土地を控訴人が本件駐車場所として排他的に使用する権利であって、そのような使用が本件土地の共有持分に基づく使用として許される範囲を超えることは明らかである。

控訴人は、かつて本件係争土地を本件駐車場所として使用していたことから、被控訴人らが控訴人の使用を妨げることは許されないとして、前記最判昭和四一年五月一九日を引用するが、同判例は、共有者の一人が他の共有者から容認されて共有地の一部に自動車を駐車させていたにすぎないのに、その容認が得られなくなった後もなお、従前どおり自動車を駐車することができると主張しているような場合について判示したものではないから、事案を異にし、本件に適切でない。被控訴人らが本件係争土地に本件車両を存置していることによって、当面は、控訴人も被控訴人らも、本件係争土地を通行することができない状態となっていることは否定することができないが、それは、前説示のとおり、控訴人と被控訴人らとの共有に係る本件土地の各自の共有持分に基づく使用を確保するため、控訴人が本件駐車場所として本件係争土地を専用することができない措置を講ずる必要があることから、共有物の管理の一環として行ったやむを得ない措置として是認されるべきものであって、控訴人が本件係争土地を本件駐車場所として使用し得る権利を有するものでないことが確定すれば、その措置も自ずと解消されることが予想されるから、本件土地の共有者の一人である控訴人が他の共有者である被控訴人らに対して共有物の管理として行われている右措置の排除を求め得るものではないといわなければならない。

控訴人は、占有訴権なども主張するが、右認定の使用をしていたにすぎない控訴人に占有訴権ないしこれに準じた被控訴人らに対する妨害排除請求権ないし予防請求権を認める余地はない。

4 また、控訴人は、甲第一二号証をもって、本件土地から各自の駐車場所を分割することが予定されていたとも主張するが、旧二九六番一六の土地から各自の所有する隣接土地を分筆するに際して、その所有地内に駐車場所を確保することが予定されていたということは、甲第一二号証の記載に照らして否定することはできないところ、そのような配慮で各自の所有する隣接土地が分筆されていると認められるのである。仮にその分筆によって残った本件土地から更に各自の駐車場所を分割する予定であったとすれば、例えば、本件土地の間口は四メートルであるから、被控訴人古川宅及び被控訴人芹田宅からそれぞれ駐車場所に必要な土地を分割すると、その結果として残る本件土地の間口は僅少なものとなって、公道から奥地にある被控訴人香山、控訴人及び被控訴人石田は、今後、各自の所有する建物の建替えすら不可能な事態となりかねず、したがって、本件土地から更に各自の駐車場所を分筆することは予定されていなかったというほかはない。これに関連して、控訴人は、本件係争土地を本件駐車場所として使用しても、控訴人の本件土地の持分割合に応じた面積の範囲内であるようにも主張するが、共有権の性質に照らし、他の共有者も含め、各自が自己の共有持分に応じた面積の範囲内であれば本件土地の一部をそれぞれ排他的に使用し得るというものでないことは、いうまでもないところであって、いずれにしても、この点に関する控訴人の主張は、失当といわざるを得ない。

5 更に、控訴人は、本件係争土地の使用権が認められなければ、控訴人が被控訴人古川清が本件土地に侵出して自動車を駐車している部分に物を置くなどして、その駐車を妨害することも、また、他の被控訴人が本件土地に植栽している草木を引き抜くことも許されることになり、これでは正当な法的解決は望めないとも主張するが、控訴人に本件係争土地を本件駐車場所として使用する権利が認められないことから、直ちに控訴人が被控訴人らに対してその主張のような実力行使に出ることが許されるわけではなく、控訴人の右主張は、採用の限りでない。

6 したがって、控訴人が、本件土地の共有持分に基づき、本件係争土地を本件駐車場所として専用的に使用し得るということを前提として、本訴請求に係るような妨害の禁止などを求める権利を有していると認めることはできないというほかはない。

二  時効による本件係争土地の使用権の取得について

1  控訴人は、前説示のとおり、かつて本件係争土地を本件駐車場所として使用していたが、その使用は、本件土地の他の共有者である被控訴人らから容認されていた範囲で行われていたにすぎないのである。

2  右程度の使用を継続していたからといって、被控訴人らにおいて控訴人が本件係争土地を本件駐車場所として使用することを明白に拒絶しているにもかかわらず、本件駐車場所として使用し得るものではなく、右程度の使用をもって、取得時効の要件である財産権の行使ということはできず、本件係争土地を本件駐車場所として使用し得る権利を時効により取得したと認め得る前提を欠くものといわなければならない。

3  したがって、本件係争土地の使用権の時効取得をいう控訴人の主張も、採用の限りでない。

三  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は、正当であって、本件控訴は、理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清永利亮 裁判長滝澤孝臣 裁判官佐藤陽一)

別紙物件目録〈省略〉

別紙損害金一覧表〈省略〉

別紙当事者所有土地一覧表〈省略〉

別紙本件土地および隣接土地の所有権移動経過表

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